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住宅の性能にこだわった商品開発の未来

STANDARD HOUSE REPORT vol.05

事例発表

株式会社三建 取締役副社長 中澤 博明

ファシリテーター 

株式会社サンプロ イノベーションラボ 本部長・株式会社LOCAS 取締役 コマツアキラ

【はじめに】

今回は、兵庫県加古川市に本社のある、株式会社三建さんにお邪魔しております。隣接している都市含めて、姫路市54万人、加古川市27万人、明石市30万人強の大都市を商圏とされています。本社(兵庫県)と神戸事業所・名古屋事業所を併せて年間160棟(うち本社注文住宅120棟)を建てていらっしゃいます。本日はこの三建さんを特集させていただきますが、なんと既にG3の最高性能モデルハウスを3棟もお持ちで、住宅の性能について、本当に力を注いでいる企業です。ぜひお話をうかがっていきましょう。

https://www.e-sanken.co.jp

【三建の事例発表】

株式会社三建は、長年にわたり住宅性能の向上に注力してきた先駆的企業です。2023年にリブランディングを行い、2024年1月から「SANKEN ARCHTECTS」として新たなスタートを切りました。本セッションでは、取締役副社長の中澤氏を迎え、同社の過去の実績と将来の戦略について深く掘り下げます。

中澤氏は、住宅業界では異色の経歴の持ち主です。大学卒業後、まず大手百貨店の外商部門で9年間勤務し、高級品販売のスキルを磨きました。阪神淡路大震災後の建築需要の変化を機に、大手ハウスメーカーの住友林業に転職。11年間でトップセールスマンとして160棟を担当し、住宅業界での経験を積みました。その後、三建に入社し、現在は取締役副社長として活躍しています。

(中澤さん)百貨店時代の経験は非常に貴重でしたが、バブル崩壊後の景気低迷を見て将来に不安を感じ、住宅業界に転身しました。大手ハウスメーカーでの経験を通じて、「家を売るのに、どういう風にお客様に訴求すると売りやすいのか」を常に考えていました。大手では決まった商品を納入するスタイルが多いですが、私は独自の仕様を考え、担当による差別化を図りながら販売していく方法を模索しました。その中で見出したのが「住宅性能へのこだわり」です。この経験を活かし、三建では高性能住宅の提案と販売に力を入れています。

2050年を見据えて三建をリブランディング

三建は、中澤氏が6年半前に入社して以来、大きな変革を遂げました。昨年、事業責任者として中澤氏が主導したリブランディングは、会社の方向性を大きく転換させる重要な取り組みでした。

以前のスローガンは「WITH YOU MADE あなたと創る家」 リブランディング後は、まさに本プロジェクト名でもある「2050 STANDARD HOUSE」というミッションを掲げました。

(中澤さん)前職での経験から、お客様が30年、40年、50年と住み続ける中で、家が古くなってしまうことに疑問を感じていました。つまりは、20年、30年、40年先を見据えて家を建てなければ意味がないということです。「2050 STANDARD HOUSE」は、まさに私たちの理念にぴったりのミッションだと感じています。

(コマツ)木造住宅の法定耐用年数は約22年ですが、実際にはもっと長く使用されます。2024年から22年後の2046年、そして2050年を見据えると、その時代でも十分に使える高性能な家を今から作ることが重要です。このメッセージを会社のミッションにしたことが、今回のリブランディングの核心だと考えています。

リブランディングに伴い、会社の視覚的イメージも一新されました。新しいブランドカラーとして青とゴールドを採用し、会社の入り口にも反映されています。この変更により、会社の印象や集客にも好影響が出ているとのことです。

加古川本社外観
ツール制作

三建の業績向上:性能重視と価格戦略の成功

三建は、中澤さんの就任以来、顕著な業績向上を達成しています。この成功の背景には、住宅性能への注力と効果的な価格戦略があったそうです。

(中澤さん)性能のところをしっかりと押さえつつ、コロナ禍の影響も考慮しながら価格転嫁を行いました。結果として、1棟当たりの単価も上昇しています。

<就任当初>

平均単価:2200~2300万円

1棟あたりの粗利:約500万円

<現在>

平均単価:3100万円

1棟あたりの粗利:800万円強

2050年を見据えた住宅性能の先進的アプローチ

三建では新しいミッションのもと、お客様の生命とお客様の生命と健康を守る家づくりに注力。特に断熱性能と耐震性能において、業界をリードする取り組みを行っています。

断熱性能:2000年よりネオマフォームを使用した外断熱住宅を販売開始。4年前にG3レベルの商品「フォレス・ゼロ・プラス」を開発し、姫路・稲美町3棟のモデルハウスを展示。

耐震性能:従来の耐震等級3を超える性能を追求。2050年までの長期視点で、複数回の大地震に耐えうる構造を目指す。

(中澤さん)断熱性能はお客様の健康を守る上で、非常に重要です。また、近年頻発している繰り返しの大きな地震を何回受けても耐え得るような耐震性能も特に大事だと考えています。2050年までの26年間で、大きな地震に見舞われたとしても、その後も安心してお住まいいただける家づくりを目指しています。今年から構造用の真壁パネルを搭載するようになりました。これにより、地震が起こった後も構造体がほぼ変形しません。どちらかというと「ラーメン工法に近い工法」と理解していますが、これで繰り返しの地震に対しても丁寧に対応していきたいと考えています。

高性能住宅の価格上昇というジレンマ

高性能住宅を提供する会社にとって、常に抱えているのは「性能を上げると、建設コストが上がる」という価格面のジレンマ。この課題対して三建では、高性能住宅の真の価値を顧客に伝えるアプローチをとっているそうです。

(コマツ)やはり性能を高めると価格が高くなってしまう。これが私たちの中で永久にあるジレンマです。いいものを作っていけば価格が高くなる、お客様のいろんなものは守りたいけれども、そこはトレードオフかなと思います。

(中澤さん)各社されていることかと思いますが、やはり光熱費のメリットと太陽光発電によるメリットに加えて、健康的なメリットをご説明しています。健康的なメリットを経済的メリットに変換して、価格に落とし込み訴求していくという両面ですね。

(コマツ)伊香賀先生や岩前先生が提唱されているエナジーベネフィットと、もう一つのノンエナジーベネフィットを、しっかりと社内で共有・指導されているということですね。

(中澤さん)健康的なメリットは、光熱費メリットほど分かりやすくありませんが、非常に重要です。例えば、日本人の平均寿命は延びていますが、健康寿命との差は男女ともに8〜10歳ほどあります。また、介護にかかる費用は、年間80万円×平均4年間=合計320万円。健康的な家に住むことで、この費用を削減できる可能性があります。つまり、高性能住宅は長期的に見て大きな経済的メリットをもたらすのです。

今後はHEAT20 G3を超える商品開発を予定

ネオマフォームの外断熱住宅をいち早く取り入れ、SE構法も日本で始めて採用した三建。住宅性能の向上において、常に業界の最前線を走ってきました。その姿勢は今後も変わらず、さらなる高みを目指しています。HEAT20 についてはG4を定義すること、G3を超えたUA値0.2以下の家の商品化やモデル建築を進めていく予定とのことです。

(コマツ)いわゆる自動車会社におけるコンセプトカー、住宅メーカーならコンセプトハウスを作っていくということでしょうか。

(中澤さん)いち早く取り組みたいですね。地元で家づくりの仕事をさせてもらう責任として、リーダーシップを取り、性能面で先頭に立つことで地域の方に認めていただきたいと考えています。三建は現在、G3レベルのモデルハウスを3棟所有しています。しかし、中澤さんによると「実際のところは、まだあまり世間が追いついていない」状況です。標準仕様で建てるとG2は0.46以下ですが、0.26〜0.46の間でお客様の希望に応じて決めていくのが実情です。

(コマツ)フロントスタッフの知識や伝える力がないと、性能だけでは戦えません。住まいの使い方も含めて、お客様としっかり話すことができれば、最終的にお客さまが一番のメリットを感じると思います。2050SHP参加する企業として、継続的な学習は必要だと思いました。

ロールプレイングを継続

三建の営業戦略は、高度な技術情報と経済的メリットを効果的に顧客に伝える独自のアプローチをしています。2030年を見据えた家づくりについて、同社は理系的な教科書のような資料を用いて説明しています。特に注目すべきは、岩前先生の広く認知されたデータを活用し、健康な住宅の利点を具体的に示している点です。

(中澤さん)G3の商品を発売する前から、営業ミーティングのたびにロールプレイングを行っていました。現在も月に2回の営業ミーティングで、ロールプレイングを実施し、全員で知識を共有しています。

(コマツ)「建物に資金を投じますか?」それとも「光熱費や医療費に投じますか?」というのはパワーワードですね。ここまでの話を進めるためには、かなりお客様と信頼関係を構築し、プロフェッショナル性を理解してもらわなければなりません。大きい商圏とはいえ、G3のモデルハウスを3棟建て、そこで証明しているというところがすごいと思います。

(中澤さん)建築の性能アップによってコスト差額よりも経済的メリットが大きいということを理解してもらえれば、お客様には買っていただけると思っています。

(コマツ)経済的メリット1,500万円か、建築費用プラス300万円か、どちらをとりますかという形ですね。フラット35などを使えば、この300万円の差額は35年間で返済すればいいので、月々数千円の違いにすぎません。このような具体的な数字や文字を使った説明方法は始めて見ました。三建さんのアプローチは、本当に素晴らしいと思います。

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「建物に資金を投じますか?」それとも、「光熱費や医療費に投じますか?」※4年前のネット調べ

①1年間の平均介護費用は約80万円×平均介護期間4年で320万円

②①同様4男前のネット調べ、G2以上の性能の家に住む場合と20年以上前の寒い家に住んだ場合の4人家族の平均医療費の差が29万円/年で、仮に10年間の差でも290万円の差になる(実際はもっと長期間にわたり影響が出ると思われる)

③太陽光搭載でG2以上の光熱費0円の世帯と平均月光熱費2万円の世帯で比較し年間24万円×35年間(ローン借入期間)で840万円、仮に年3%電気代等の光熱費が上昇したとしたら840万円→1451万円の差となる。

④は各部屋にエアコンを設置した場合(LDK(6.4KW)・寝室(2.8KW)・子供室×2(2.2KW×2)、と1階に1台、2階に1台、合計2台(2.8KW×2)のエアコン等のコスト差と床暖房の要否の差。

②はデータがあり。結果としては大きく差が出るため、細かい数字よりは考え方を訴求するイメージの方が強い。

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コーチパネルによる耐震性能の向上

三建は、耐震性能を大幅に向上させる新しい真壁パネル工法を導入しました。この技術は、繰り返しの地震に対する高い耐久性を実現し、従来の工法の弱点を克服しています。

(中澤さん)2024年4月から一部採用を始め、今後はメインに展開していく予定です。工場で生産された真壁パネルを柱間に全壁はめ込む形で、このパネル自体が構造面材となります。全壁ではめ込むので、非常に強固な構造になります。

(コマツ)コストについてはどのくらいになりますか?

(中澤さん)原価で差し引き10万円ほどのプラスです。大工の手間が減る、羽柄材が不要になる、工期短縮になる等で減額もされた結果です。パネル自体は30坪で1棟あたり80~100万円はかかりますが、制震装置も不要になるなど、総合的に見れば大きなメリットがあります。

振動実験で優れた耐震性能を実証

コーチパネルを使った家では、従来の耐震等級3相当の基準を大きく上回る性能を示しています。特に、繰り返しの地震に対する耐久性と、一回の強い地震後も構造体の強さを保つ能力において優れているそうです。

(コマツ)繰り返す揺れを想定した振動実験と、そこの剛性を維持する能力が、他の筋交いや面材と比べて優れています。耐震等級3がずっと続いていくということは、非常に重要です。

(中澤さん)ウォールスタットによる耐震性能の比較実験では、全て耐震等級3相当であっても結果に大きな差が出ました。筋違いの建物は倒壊し、面材大壁板張りの場合は倒壊しないまでもかなりのダメージを受けます。一方で、この真壁パネルの強さは一目瞭然です。

(コマツ)この図は1回目の地震での影響を示していますが、できれば繰り返しの揺れを見せたいので、5回目くらいの影響が出る図を見たいですね!逆にいうと、壁量計算による耐震等級3相当でも、1発で倒れたり傾いたりするのは、非常に危険ですね。それに対して、真壁パネルはしっかりと耐えられることがわかります。

(中澤さん)弊社でも真壁パネルを採用する前は、真ん中の「大壁直貼り」を採用していました。大壁張りは人の手でパンパンパンと固定していくので、釘やビスの打ち込み方による強度のばらつきが問題でした。この新しいパネルは工場生産品なので均一性が高く、そういった心配を払拭してくれます。最近1棟目を上棟しましたが、パネルの精度が高く、ぴったりとはまっていくのを見てすごいなと感じました。気密性も問題なく、今まで以上にC値が高くなっています。

2050年を見据えて先進的な技術で対応する

三建の取り組みは、2050年に向けた住宅建築の課題に対する、包括的なソリューションを提示しています。

(コマツ)2050 STANDARD HOUSE PROJECTでは断熱性能の向上だけでなく、2050年のカーボンニュートラル達成という大きな課題にも取り組んでいます。三建さんではそれに加えて、日本特有の地震問題にも先進的な技術で対応しています。日本のどの地域でも地震のリスクがある中で、こうした耐震技術は非常に重要です。多くの会社が取り組んでいますが、三建さんの先進的な技術は特徴的だと考えています。三建さんの革新的なアプローチは、モデルハウスにも反映されています。空調の仕組みも独自で開発されるなど、さまざまな取り組みが展開されておりますので、皆様もお近くにお越しの際は、ぜひ見学してみていただければと思います。