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北海道の気候を鑑みた高性能な住宅の実現にむけて

STANDARD HOUSE REPORT vol.6

事例発表

竹内建設株式会社 代表取締役社長 竹内 哲也

設計部 マネージャー 庄内 貴子/営業部 マネージャー 西村 友貴

ファシリテーター

株式会社サンプロ イノベーションラボ 本部長・株式会社LOCAS 取締役 コマツアキラ

[はじめに]

今回は、北海道札幌市に本社がある竹内建設株式会社さんを訪問しました。メイン商圏は札幌の豊平地区(人口約20万人)。北海道は、冬だと積雪で夏の倍以上の移動時間がかかってしまうため、アフターメンテナンスを考えて札幌市内から車で30分以内を商圏と考えていらっしゃいます。年間棟数は現在約40棟。道産材にこだわり、北海道愛にあふれるだけでなく、北海道の気候を鑑みた高性能な住宅を手掛けています。とくに力をいれている独自の換気システムついて、お話をうかがっていきましょう。

https://www.tk2430.co.jp

[竹内建設の事例発表]

G3平屋モデルハウス「popke(ポッケ)」の紹介

今回訪問したのは、竹内建設のHEAT20 G3の平屋モデルハウス。「popke(ポッケ)」という名称の語源は、アイヌ語で「暖かい」を意味するそうです。建築面積20坪弱、床面積17坪台の広々とした敷地には、特別な理由がありました。

(竹内)上部に高圧線が走っており、広範囲で地役権の制限がかかっています。建物の三角になっている部分までが最大建築面積です。

(コマツ)特殊な土地ですが「制限がある中でも、最大限に土地を活用して家づくりができる」という竹内建設としての提案も含まれているモデルハウスですね。

北海道愛を大切にしたモデルハウス

竹内建設は地元愛を大切にしており、モデルハウスにも北海道産の部材や独自技術が随所に使用されていました。外壁には道南スギが使われており、美しい色合いが目を引きます。これは竹内建築のブランドカラーにも寄せてあり、経年変化でグレーを帯びていくことを計算して劣化が目立たない色味にしているそうです。

(竹内)このモデルハウスを見て、平屋を建築されるお客さまもいらっしゃいますし、デザインも評価いただいています。好みは違っても、これだけの建物を建てられるなら竹内建設に任せて大丈夫だと思っていただけているのではないかと感じます。

道産材の外壁
道産材の外壁

UA値0.18の極めて高い断熱性能

札幌の断熱区分は2地域。HEAT20 G3を実現するには、UA値0.2以下でなければ建てられません。実際にこちらのモデルハウスでは、UA値0.18程度を実現しているそうです。

(コマツ)本州で5〜7地域の方々は、驚くUA値だと思います。

(竹内)元々、モデルハウスを建てる際には「その時、持てる技術をつめる」という企業文化があります。実際にUA値0.2を切るスペックの住宅は、13~4年ほど前には建てています。

(コマツ)10年前にG3を実現されているというのは、パイオニアといっても過言ではないですね。

自然の力で空気を動かすパッシブ換気

そしてこちらのモデルハウスの大きな特徴が、換気システム。動力を使わず、自然に換気する「パッシブ換気」を取り入れています。

(竹内)暖かい空気が上昇するのを利用した仕組みです。簡単にいいますと、床下を暖めて自然の対流で換気していきます。この設備自体も、北海道の設備会社さんが開発されたものなので、これも「北海道愛」ですね。 建物の裏側から換気システムの裏側が見られるということで、実際に見せていただきました。薪ストーブの煙突のように見えるのが、排気用の煙突。煙突効果で空気が上に抜け、手前の丸い給気口から新鮮な空気を室内に取り込む仕組みです。

排気用の煙突
popkeモデルハウス入り口
popkeロゴ

道産材の床材や漆喰の壁

ここからは、モデルハウスの中を見せていただきました。床材は道産材のナラということで、スタッフの皆さんで植林活動もされているそうです。

(コマツ)使った分をしっかり植えて、サステナブルな取り組みをされているのですね。

(竹内)広葉樹の植林は昨年から始めました。構造体に使用するカラマツの植林は2011年から続けてきて、累計約15,000本を植林しました。私としては、いつか植林した木を使って自宅を建てたいという夢があります。

道産材の床材

北海道のほたての貝殻を使った、漆喰の塗り壁も見せていただきました。

(コマツ)ほたての貝殻とは珍しいですね。漆喰だと調湿効果があって、冬場でも過乾燥しにくいですよね。

(竹内)そうですね。既にこちらの仕様の家に住んでいるお客さまからは、年間を通して湿度50%前後を保てていると報告をいただいております。

漆喰の塗り壁(ほたての貝殻)

天井にも、道産材のカラマツが使われていました。

(コマツ)道産のカラマツの集成材でしっかりと強度を保つ設計をするのも、竹内建設さんの特徴ですね。木材なので調湿効果もあるのでしょうか。

(竹内)そうですね。木材なので多少あるとは思います。

道産材の集成材(カラマツ)

エアコン1台で快適なLDK

一般的に北海道の夏は快適だと言われていますが、この日は珍しく暑い日でした。しかし、モデルハウスの中に一歩足を踏み入れると、そこは驚くほど快適な空間。たった1台のルームエアコンのみで、快適な室温が維持されていました。

(コマツ)LDKは窓を通して外と繋がっていて、広い空間になっていますね。

(竹内)実際には17畳ほどしかありませんが、対角が広めに取ってあることで、空間の広がりがあるように見えているのではないかと思います。

制震ダンパーを使った耐震等級3の家

主寝室では、通常は隠れている制震ダンパーが見学可能。震度6程度からの大きな揺れにしか対応できない制震ダンパーが多い中で、竹内建設では小さな揺れにも性能が発揮できるダンパーを採用しているそうです。

(コマツ)耐震等級3といっても、一回の地震で大丈夫なのではなく、その後も財産として残していくためにも、その後でもしっかり耐震等級3が維持されることが大切ですよね。

(竹内)そうですね。震度6のような大きな揺れには効くけれど、日頃の小さな軋みからダメージを受けているとやはりよろしくないということで、耐風圧でも効果が発揮できるようなダンパーを採用しました。

ダンパー

パッシブ換気システム「BAQOOL」

ここからは、設計担当の庄内さんにもお話を伺いました。庄内さんが竹内建設へ入社したのは約16年前。その前は断熱性能へのこだわりが日本一ともいわれるハウスメーカーでキャリアを積まれていました。その経験を活かして、徹底的に住宅性能にこだわって設計したのが、今回訪問したモデルハウスです。 popkeは北海道の家にも関わらず、家中の暖房を床下エアコン1台でまかなえる設計となっているそう。今回はこの床下エアコンとパッシブ換気を用いた「BAQOOL(バクール)」という換気システムの仕組みも詳しく教えていただきました。

設計部 マネージャー 庄内 貴子さん
床下エアコン

(庄内)こちらが、冬場の暖房のために設置された床下エアコンです。夏場の冷房のためのエアコンは、もう1台別についています。

(コマツ)冬場はここから暖かい空気を送っているのですね。エアコン室がある脱衣室の横は、ある程度湿度がある空間。床下の温度が高く、湿度を高めてあげるという効果もあるということですね。

屋外の給気口につながる筒

脱衣所にある黒い筒は、屋外の給気口に繋がっているもの。外から取り込まれた新鮮な空気は、床下の断熱ダクトを通り、空気室で室内の空気とブレンドされます。床下エアコンで温められた空気が床下空間に充填されると、家中にあるガラリから各部屋へ送られ、部屋が暖かくなる仕組みです。

(庄内)汚れた空気は、部屋の上部についた排気口から自然に外へ出ていきます。排気口は電気を全く使わず、湿度を感知して自動で開閉します。

空気室
排気口

夏場は部屋についた冷房用のエアコンで室内の空気を冷やすことで、床下の暖かい空気が上昇。自然に外へ排出され、新鮮な空気が入ってくるそうです。

(庄内)夏場は床下を冷やすと結露するので、床下エアコンは止めます。その代わり部屋のクーラーをつけて涼しくして、温度差効果で換気するイメージです。このとき、エアコンから一番遠い部屋の窓をほんの少し開けると、空気の流れが一気に起きて、対流効果でものすごく冷えます。

(コマツ)気候のいい春や秋は、空気が動かないような気がしますが、いかがでしょうか?

(庄内)春先は、エアコンを少しだけ動かして暖かくします。

(コマツ)わざと温度差を生じさせ、強制的に対流を作って空気を動かすということですね。 BAQOOLでは、面倒なダクト掃除も不要。エアコンのフィルターのみを掃除すれば良いそうです。また、電気を使わないため、停電時も自然換気ができます。

省エネ性能ラベルで最高評価

そして話題に上ったのが、2024年4月から努力義務化された省エネ性能ラベルについて。popkeは非常に性能が高く、性能表示ラベルでも最高評価を受けています。

(コマツ)北海道で目安光熱費が年間約15万円というのは、桁違いに安いですね。

(庄内)このモデルハウスの前にpopkeの第1号を建てていますが、そちらも光熱費はほとんど同じ金額でした。30坪の場合は、年間20万円ほどになると思います。

(コマツ)一般的な北海道の冬場の電気代は、月10万円くらいですよね。

(竹内)がんばって節約しても、月7万円くらいです。

(コマツ)それが北海道の現実だと考えると、この性能がどれだけすごいことか分かります。住宅ローンよりも電気代の方が高いので、建築費が上がっても性能の高い家がいいですね。御社ではG2からG3へ性能アップするのに1戸あたり80万円程度ということで、企業努力も感じます。

竹内建設ではお客さまへ性能ラベルについても丁寧に説明されているとのこと。営業の西村さんにもお話を伺いました。

(コマツ)性能ラベルのお話は、お客さまにご説明すると分かっていただけますか。

(西村)そうですね。モデルハウスにもこういった性能ラベルの説明展示がありますし、パンフレット内にも表示しておりますので、しっかりとご納得いただけているのではないかと思います。

省エネ性能ラベルの展示

(西村)バクールを唯一体感できるのも、このモデルハウスです。冬場は暖房が半日稼働しており、お客さまに見学いただく日中にエアコン自体は止まっている状態です。余熱でこれだけ暖かいですよ、というのを体感していただけます。

HEAT 20 G3の断熱仕様について

(庄内)モデルハウスの基礎の断熱は、外側にネオマフォームの100mm、内側に50mmを入れています。床下を断熱空間にしているので、熱を入れないため土間の下は100mmにしていますが、実際には50mmで十分かもしれません。壁は外断熱でネオマフォームの90mm、屋根は180mmです。

(コマツ)屋根は一番熱が逃げるところなので、徹底的に断熱して、気密もそれに応じて高めていくという形ですね。

(庄内)その通りです。窓はYKKのトリプルサッシ、玄関はイノベストD70を使っています。

性能とコストのバランス

popkeのコンセプトはG3ですが、竹内建設の中でも他のブランドはG2が標準。断熱性能を上げると、どうしてもその分コストは上がってしまいます。そのため、性能表示ラベルなどを用いてお客さまへ丁寧に説明しながら、予算とのバランスを取っていくそうです。

(コマツ)G2を標準にされている会社さんは多いと感じています。パッシブなどを取り入れていけばG2で十分なことも多いので、バランスが大切ですね。

(庄内)断熱のスペックを上げると、どうしても耐震も上げる必要があります。太陽光パネルを載せると、屋根や積雪の荷重も考えた耐震の設計をしなければなりませんので、壁量計算ではなく許容応力度計算・限界耐力計算を行っています。

【竹内建設について】

新築・リフォームのほか、長期優良住宅認定リノベーション・不動産・特殊建築など、住宅業界で幅広い事業を展開する竹内建設。本社がある札幌市豊平区は人口約20万人。交通アクセスがよく緑にも恵まれており、子育て環境として人気の高いエリアです。

(竹内)基本的には豊平エリアを中心に札幌市近郊まで、車で約30分の範囲を商圏エリアとしています。夏は30分で行けても、冬になると1時間程度かかるため、アフターメンテナンスを考えて約30分を目安としています。

竹内建設のもう一つの特徴が、「株式会社エーステック」という自社のプレカットや一部他社の施工を専門とするグループ会社を持つこと。直営工場で仕上げる構造材は、強度が高く、均一な品質を供給できます。グループ直営施工体制が高性能な竹内建設の家づくりを支えています。

本州とは異なる北海道における家づくり

(コマツ)北海道の冬場の工事はいかがですか?

(竹内)冬場でも基礎にテントやビニールボックスを掛けて、練炭で温度管理をしながら工事をしています。

(コマツ)北海道の家づくりには特徴がありますか?

(竹内)雪を落とさないために、屋根の上部に雪を乗せたままにできる「ダクト屋根」が特徴的です。基本的には1.4m、エリアによっては1.7mの雪が積もっても問題ない設計です。このモデルハウスも片流れ屋根ですが、ほとんど勾配は取っていないので、基本的に雪は落ちません。

道産材を使い続けたい

(コマツ)竹内建設さんは道産材をしっかりと使っていらっしゃいます。助成金制度があるから地域材を使うという企業もありますが、北海道でも道産材を使う企業は増えましたか?

(竹内)ウッドショックの影響で道産材を使う会社が増えましたが、当社は30年以上前から道産材を使うのが当たり前になっています。ウッドショックの際も、長年のお付き合いがある企業から「竹内さんの分は一切止めませんよ」とお声がけいただき、混乱することなく供給できました。価格は高いですが、これからも道産材を使い続けたいと思っています。

リブランディングプロジェクトでの変化

以前は昔ながらの工務店というイメージがあった竹内建設ですが、2019年にはリブランディングを実施。ブランドミッション「暮らしにきらめきを。illuminate a life.」を掲げ、新たなスタートを切りました。

新しいロゴマークのポイントは、竹内の「a」が「α(アルファ)」になっているところ。星座の中で一番輝く北極星ポラリス「α星」のように一番輝く存在になろう、住宅・暮らしにきらめきをつくる道しるべになろうという意味を込めています。

(竹内)以前は、工務店なのかゼネコンなのか、分からないような状態でした。

(コマツ)札幌市内の映画館でローンチイベントを開催し、変化されていきましたね。元々、札幌という土地柄もあって、社員も垢ぬけた方が多かったですが、さらに垢抜けていかれた印象です。

今後の竹内建設のビジョンについて

(コマツ)一流のものを使い、一流の設計をして、換気システムなどの独自性を磨くこと。そうすることで、本プロジェクト「2050 STANDARD HOUSE PROJECT」の名の通り、2050年を想定した暮らしをお客さまへご提案できると思います。最後に今後のビジョンを教えてください。

(竹内)当社では10年以上前から長期優良住宅が全棟標準です。2世代3世代と住み継げる住宅を建てるには、建物自体の耐久性はもちろんのこと、会社がしっかりと存続できる経営をしていかなければなりません。その努力を、日々させていただいております。

(コマツ)やはり家を売る会社としては、永続する企業になることが責任ですよね。しっかりと企業ブランディングに取り組み、経営の面を含めて考えているということですね。ありがとうございました。