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2050年に向けたカーボンニュートラルの取り組み 住宅省エネの最先端

STANDARD HOUSE REPORT vol.01

講演 

国土交通省 住宅局 参事官(建築企画担当)付 建築環境推進官 佐々木 雅也 氏

省エネ対策が必要な背景

そもそもなぜ省エネ対策が必要なのでしょうか?「部門別のエネルギー消費の推移」に関する資料では、1990年を起点とし2019年までの30年間で、産業部門及び運輸部門においてエネルギーの消費量は減少しております。しかし業務部門と家庭部門は増加。実はこの業務部門の中には建築物が、家庭部門の中には住宅が含まれているのです。つまり住宅・建築物の分野は唯一エネルギー消費量が増えている分野であることがわかります。「シェアの推移」のグラフ(下図)にもある通り1990年時点で25%だった家庭部門・業務部門のエネルギー消費量のシェアが今は3割を超えるといった状況になっています。

地球温暖化対策計画、エネルギー基本計画の見直しについて

次に国家レベルの話となりますが、2015年に締結した「パリ協定」を受け、地球温暖化対策計画・エネルギー基本計画の見直しとその計画があります。こちらについても「住宅・建築物分野でCO2の排出目標量58%削減」という非常に大きな目標を掲げています。具体的には「既存住宅の断熱改修」という部分に関して、全体の1.5%=91万kl(原油キロリットル換算)の削減が割り当てられてる状況です。

日本の住宅の新築・既存住宅に関する性能について

次に「省エネ基準適合およびZEH水準/ZEB水準適合率」の資料から、日本の新築および既存住宅のレベルについて整理していきます。

今年度、義務付けられる省エネ基準適合率をみますと、令和2年度では大・中・小規模を含む全体で適合率83.7%(小規模については適合率90.7%)と一定の水準を達成しています。省エネ基準値がもう一段高いZEH水準(強化外皮+BEI=0.8)に相当する基準適合については、適合率26.1%となっており、より高い省エネを目指すにあたって、かなり努力を有するという状況がみえてきます。

住宅ストックの断熱性能について

次に適合率を達成することが難しいとされる「住宅ストックの断熱性能」についてのデータです。省エネ基準では、現行基準への適合率はなんとたったの13%。その前の少し古い平成4年基準については適合率22%、今となっては古く低いレベルでの昭和55年基準に関しても適合率は36%。そして何よりも昭和55年の基準にも満たない「無断熱住宅」が約3 割も存在することがわかっています。

この状況に関する打開策をみつけることが近々の大きな課題となっています。

改正建築物省エネ法等の背景・必要性、目標・効果について

基準適合率達成を急ぐ背景には、住宅関係への「2050年カーボンニュートラルに向けた取り組み」(右下青い部分の表)という目標を定めていることがあげられます。2050年にストック平均でZEH・ZEB水準の確保を目指し、そのためには逆算すると2030年までには新築についてZEH・ZEB水準の省エネ性能の確保をしなければいけないことがわかっています。それに対して、新築・既存ともに基準適合すらも義務づけていない状況にあるため、抜本的な取り組みの強化が必要となっています。こういった背景から2年前に建築物省エネ法は改正されました。

省エネ対策の加速について

①省エネ基準適合の義務付け建築物省エネ法の改正内容は、大きく4つあります。1番重要なのは、「省エネ性能の底上げ」で、これが2025年4月から始まります「省エネ基準適合義務制度」となります。2025年4月以降に工事着手するものから「省エネ基準適合」が義務付けられます。

この工事に着手という点でご注意いただきたいのが、2025年3月までに確認を終えても工事着手が2025年4月以降であれば、「省エネ基準適合」が必要となります。この省エネ基準適合は、全ての新築、非住宅、増改築も対象となります。ただ建築基準法の改正の範囲ですので、いわゆるリフォームは対象外という扱いになります。

②より高い省エネ性能への誘導および住宅トップランナー制度の対象拡充

多くの住宅供給している企業は、社会への影響が大きいことを鑑み、より高い目標を持って取り組んでもらいたいといった観点から設けられた制度です。この中で重要なのは2024年4月から始まる「省エネ性能表示の推進」です。これは販売または賃貸する際に、広告に省エネ性能を表示しなければいけない等を義務付けた制度になります。これは非常に意味のある制度であると考えています。なぜなら省エネ性能が市場で高く評価されない限り、既存ストックの省エネ性能は高まっていかないことがあげられるからです。そのためには取引の中で、省エネ性能が評価される仕組み=表示制度(適合基準達成の見える化)が必要です。

③「ストックの省エネ改修」

次に「ストックの省エネ改修」も行っております。ただこちらは、正直いうと手詰まりなところもあり「融資制度の創設」ということに留まっています。どういう手が打てるのかをこれから本当に考えていく必要がある分野だと認識しています。

④「再エネ設備の導入促進」

最後に「再エネ設備の導入促進」は自治体向けの制度です。2024年4月から開始した制度で市町村が再エネ設備の設置を促進する区域を定めた場合にはその区域内においてアメとムチが与えられます。

まずはムチにあたる点は、改修も含めて設計の際には、建築士が発注者(大家さん等)に対して「再エネ設備の導入効果に関する説明義務」が義務付けされます。

アメにあたる点は「形態規制の合理化」となります。例えばカーポートで屋根に太陽光パネル取りつけるような場合、通常は柱と屋根があるため、容積・建ぺいも規制対象になってきますが、この部分について、このために例えば規制値を超えるような場合や上限値を超えるような場合は、その部分について特例許可を認めることになっています。これが容積・建ぺい・高さが対象になった「形態規制の合理化」というものです。

全国ではすでに20ぐらいの自治体に導入または4月から検討するといった状況になっています。

省エネ基準適合にかかる規制の概要について

次に義務制度ですが、上段の「基準適合に係る規制の概要」については、全部対象になるということで理解は簡単だと思いますが、下段「増改築時の規制の概要(改正後)」については少し補足をいたします。

増改築の場合も、省エネ基準適合の対象(義務付対象)ですが、非住宅の大規模および中規模では増改築部分と既存部分を含めた全体で省エネ基準適合を求めていました。この部分をこの2025年4月の法改正から、増改築・増築した部分だけで基準適合を求めればいいという形に改められています。

これは既存部分に手を加えなくても、省エネ適合基準が満たされるということで、これによって、省エネリフォーム自体の動きを止めることがないようにするという、緩和的な措置となっております。この辺りもご注意いただければと思います。

住宅建築物分野の省エネ対策の進め方について

この図は、縦軸が新築と既存を、横軸が時間軸を表しています。

この1番右端の時間軸の2050年には、新築・既存両方に合わせて、ストック平均でZEH・ZEB水準の省エネ性能の確保を目指すとしています。そして2030年は新築のみについてZEH・ZEB水準の省エネ性能の確保を目指すという形になっています。

翻って、現時点(赤点線)は、2025年の義務付け前という地点になります。2025年4月に全面義務化、その後2030年までに義務付けた基準の引き上げが待っているというスケジュールとなっています。

他には誘導的な措置として、例えば「誘導基準の強化」については、税や補助等の対象になる基準をZEH・ZEB水準に引き上げているといった取り組みをすでに行っています。一方で、既存部分の政策が非常に少ないというのが課題で、これから取り組みを本腰をあげて進めなくてはならないと考えています。

建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度の概要について

この既存部分に対して1つの方策、唯一にして重要な方策、これが2024年4月から始まる「省エネ性の表示制度」です。

住宅、非住宅問わず、建築物の販売または賃貸する際に、オーナーは必ずこのラベルを表示しなければならない、ラベルによって省エネ性能を表示しなくてはならないという制度です。制度上は、努力義務に分類されます。しかし努力義務なのにも関わらず、この制度に基づいて表示しなかった場合は、勧告、最終的には公表まで行きついてしまいます。若干、強制力を持った努力義務に位置付けられていることをご留意ください。

このラベル表示の説明ですが、まず星印で「エネルギー消費性能」が示されています。星1つが省エネ基準適合(BEI1.0)です。BIEが 0.1を上がるごとに、星が増えていく仕組みになっています。で、右の方にいくと星にキラキラマークがついてきます。これは太陽光発電の自家消費分を評価する形を取っています。その下、家の形をした表示は、断熱性能ですが、1から7まであります。これは住宅性能の表示制度「断熱等級」と連動しております。すなわち 4にあたる箇所が「省エネ基準適合」ということになります。

1、2、3は既存住宅向けに設けている表示ですので、3以下、4以上で家の大きさを変えて違いを表すようにしています。

この他「再エネ設備の設置の有無」や、「ZEH水準(ネットゼロ エネルギー)」についても表示できると同時に「目安光熱費」も表示されます。ただこのラベル自体Webプログラムで計算し自動的に計算結果が出る仕組みになっており、一義的には動かすことはできません。省エネ計算するとそのまま自動的にすべて計算され表示されるプログラムになっています。

このラベルが取引で使われることによって、高い省エネ性能を有する住宅が高く評価される、そういう市場にしていきたい考えです。それをまず新築に対して導入を促すということで、この4月から始まります。

次に既存の住宅、非住宅のラベルをどうするかという検討も開始しています。既存の住宅、非住宅に同じようなこのラベルが作ることができればよいのですが、既存住宅の場合、断熱診断などの設計等が必要になりますが、おそらく出てこないだろうという前提の元で、他にどういうことができるかということを現在検討しています。

方向性としては、いくつかあり1点目は「断熱改修をした部分が明示されるようなラベル」が作れないかということを考えています。例えば窓の交換や給湯器を変えたなど、断熱改修を加えた部分がどこなのかがひと目で分かるようなラベルを作るというアイデアです。そして2点目は、建設年代や、国庫融資や住宅金融支援機構(JHF)(フラット35等)といった利用した融資制度から、ある程度その住宅がどのような省エネ性能を有しているか推定でき、判断材料となります。それをベースにラベル化するといったことも検討もしています。その他には、例えばエネルギー使用量から逆算する方法など様々な方法がありますが、まずは新築そして改修からスタートします。そしてこのラベル制度自体は、これからどんどん裾野が広がっていくと考えています。

住生活空間の省エネルギー化による居住者の健康状況の変化等に関する調査概要について

少し話が変わりますが、地球温暖化対策といっても、なかなか消費者は、それだけで省エネにしてくれるかというとそうはなりません。特に45歳以上の世代は、断熱住宅に住んだことがない世代が多いといえます。住んだことの経験がない人に、断熱の高い住宅が省エネに優れていて非常に良いといくら伝えても実感がわきにくい現状があります。そこで意識の変化、意識を変えてもらう必要がある。そのための効果的な方法のひとつとして「住宅と健康」との関係があげられるのではないかと考えています。

この住宅と健康に関しては、実は国交省と厚労省が連携して上記のような検討研究をしてきています。

例えば、「長期コホートスタディー(改修住宅と比較対象住宅において毎冬継続的にデータを収集する)」や、「改修5年後スタディー(改修5年後と比較対象住宅において毎冬継続的にデータ収集する)」など、継続して取り組んでおり、ある程度の数値的な結果も出てきています。

断熱性能の向上と健康への影響

例えば「18度以上の室温になれば最大で1日活動時間が50分増えます。」といったように、具体的な50という数字まで明確に出てきています。この辺りを消費者に伝わるように自治体とも連携しながら告知」し、「断熱改修」という方向に人々の行動を持っていきたいと考えています。

WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)の定義について

う1点、違うテーマとなりますが、「ライフサイクルカーボン」という概念が出てきています。これは、これまで私たち国がずっと議論してきた「省エネ基準」というのは、この図でいうところの下部にある「使用段階の運用時に発生するカーボン」という、オペレーショナルカーボンのエネルギー消費(B6)の部分になります。ここだけのことといえるのです。

一方で建物を作って壊すまでの間には、例えば建材が作られる材料調達工場での製造、現場への輸送、施工など様々なところでCO2が排出されていますし、解体時にもCO2は排出されるわけです。これからはこの「オペレーショナルカーボン」だけではなく、全体のライフサイクル全体のカーボン=「ホールライフカーボン」を、しっかり評価すべきではないかという議論が今、欧米では積極的に進んでいます。

私たちもこの検討を現在開始しているというような状況です。

建築物のライフサイクルの各段階におけるGHG排出量について

は、次にライフサイクル各段階のGHG(グリーンハウスガス)の温室効果ガス排出量を見てみましょう。上記円の図のグレーの部分がいわゆるオペレーショナルカーボン(今の省エネ基準)運用時のカーボン=5割で、緑の部分が建設段階で発生するカーボン=3割、紺のところは改修と解体で発生するカーボン=2割を占めるというのが、国際的な平均値ではないかというスタディーを示しているだけです。この実態を見ると、実は用途によって全く異なり、住宅だとオペレーショナルカーボン7割まで来ているものも結構あるようです。

ただ一方で省エネ化を進めれば、このグレー(オペレーショナルカーボン)のところが減ってくるわけです。そして、この緑(建設段階で発生するカーボン)や紺(改修と解体で発生するカーボン)の割合がどんどん増えていき、これを減らしましょうという概念が次に出るわけです。

このライフサイクルカーボンの議論自体は、ヨーロッパの方では国によって様々で違いがありますが、既に上限値の規制という形で導入している国も出てきています。日本もこれからこの算定手法というのを作り上げた上で、皆さんに算定してもらい、事例を積み重ねていければと考えています。その数値次第では、規制が必要という話になるのかもしれません。まずは計算してみましょうという段階で、様子を見るかもしれません。

ただこの議論進めば何が起きるかというと、「新築よりも、もしかするとリフォームの方がいいんじゃないか」という選択肢が出てくるということになります。

ライフサイクルカーボンの議論はですね、これまで「コストとデザイン」っていう2軸だったのですが、設計というか、住宅生産の現場に、もう1つ「CO2排出量」という新たな軸が生み出されるような可能性があります。そうなると主宅業界の生産体制、思考回路自体を大きく変える必要が出てきますから、非常に大きな議論になるかもしれません。そういう意味でも、今後皆さんに注目をしておいていただきたい部分です。

省エネ住宅の新築に対する主な支援措置について

つぎに補助事業についてですが、新築・改修に関しては国交省と環境省、経産省で3省連携して多くの補助金制度を創設しています。国交省は「子育てエコ住まい」といった新築と改修で利用できるように取り組んでいますが一本足打法に近いので、他の分野であれば経産省、環境省の方が、税や融資も含めた非常に多様な補助制度に取り組んでいますので、国交省だけではなく他省庁を見て進めていただければと思います。

以下、主な支援事業の資料となっております。参考にご覧ください。

                                                     資料引用:国土交通省